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しんぺんちゅうしんぐら

新編忠臣蔵

吉川 英治

「日の出」1935(昭和10)年1月号~1937(昭和12)年1月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 337,181 字 · 676 页

青空文庫

古き傷痕

その時だ。――空には暁の紅がもうほのかに見え初めていた。

呼笛が鳴った。

合図。

かねてからそれは、こう諜し合せになっていたことである。

吉良どの、ここに有り。

上野介どの見つけたり。

四息、――五ツ息、――すべての人数が洩れなく集まって来るまで、その呼笛はふき続けられている。

古き傷痕

意外な所に、寝室があったように、又意外な所に、隠居所だけの台所があった。

そこの炭部屋であった。

一棟建ちで、小屋の戸には、外から錠が下りている。一見、何の異状もないように見えるが、

『はてな?』

主税が足をとめ、岡野金右衛門は、破目板へそっと、耳をあてて、窺っていた。

その間に、一方の路地から、木戸を破って、堀部安兵衛に矢田五郎左衛門がここへ来あわせ、又、横川勘平と、間十次郎のふたりもすぐ後から駈けて来た。

『――怪しいっ』

と、勘平が云った。

『開けろ』

主税が寄ると、万一の危険を思って、安兵衛がそれを押し退けるようにして、戸へ手をかける。

矢田五郎左衛門は、槍の石突で、錠前を二、三度突いた。錠が刎ねると一緒に、ぐわらっと、炭部屋の戸がひらく。

ふと、一人が足を入れかけると、いきなり真っ暗な闇の中から、皿や、茶碗や、炭や、棒切が飛んで来た。