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しんぺんちゅうしんぐら

新編忠臣蔵

吉川 英治

「日の出」1935(昭和10)年1月号~1937(昭和12)年1月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 337,181 字 · 676 页

青空文庫

庭木鋏

のみならず、十一名の一人一人、一歩一歩、怖ろしく力がある、隙がない。石火矢を撃ちこんでも、みぐるしい狼狽えはしそうもない緊張が見える。鉄の塀が徐々と船に添って行くようにも見えるのである。

『清水一学がいる! ……』

堀部安兵衛のそばへ来て、郡兵衛がささやいた。

『…………』

安兵衛は、冷烈な眼をかがやかしているのみだった。

『――後の者は?』

と、これは奥田老人。

誰ともなく、

『読めた、清水一学が米沢へ出向いていた。上杉藩から選りぬいて来た国許侍! そうだ……そうに違いない』

『米沢の剣客か』

『隠居の付人に連れて来た者たち』

低く――然し、つよい語気で、誰かが、

『くそっ』

と、呟いたのが風に流れた。

庭木鋏

千坂兵部の命をうけて、米沢の国許から、十名の剣客を選りぬいて、清水一学が江戸表へ帰って来たのは、つい今朝の事だった。

(御隠居のお引移りまでに)

と、兵部から云われていたので、今日という日取りを、急ぎに急いで来たのである。

兵部から、その通知があったので、上野介父子は、すぐ新居へ身を移す事になったので、その一行は、旅の装いを解く間もなく、清水一学に従って、着府早々、今夜の任務に就き、そのまま松坂町へ止まるようにという旨を兵部から受けていた。