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しんぺんちゅうしんぐら
新編忠臣蔵
吉川 英治
「日の出」1935(昭和10)年1月号~1937(昭和12)年1月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 337,181 字 · 676 页
二度見た女性
落首だろう、何と認めてあるか見て来い』
口取中間の平助が、辻の塀まで駈けて行って、やがて、この人混みから又、主人の馬の側へ戻って来た。
『見て参りました』
『落首か、何とあった?』
『――細川や水野ながれは清けれど……』
『ウム、下句は』
『――ただ大甲斐の隠岐ぞにごれる』
『ハハハハ、やりおるの、町人共の観察も怖いものじゃ。義士のお預けを承わった四家のうちでも、細川、水野の両家は、情ある扱いをしておるが、毛利と松平の二家は、お上を憚って、冷遇じゃという噂がある。それを詠ったとみえる』
藩邸の横へ出て、目黒門の坂小路を登りかけてくると、伝右衛門は、
『待て、平助』
手綱を止めて、駒の鬣のうえへ、凝と身を屈めるようにしながら彼方を見ていた。
黄昏れの白い靄が、片側の崖の森から往来へ淡く立ちこめていた。よく分らないが、慥かに女である。目黒門の外に彳んで、時折、塀のふし穴でもさがすように彷徨いているのだった。
『――ア、又彼の女がおる、紫の頭巾をしているじゃろが。……平助、何じゃ、あれは』
『何やら存じませぬ』
『これで両三度見たぞ。いぶかしい奴、捕えてみい。……あっ不可ん、こっちを振向いた。