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しんぺんちゅうしんぐら
新編忠臣蔵
吉川 英治
「日の出」1935(昭和10)年1月号~1937(昭和12)年1月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 337,181 字 · 676 页
二階の従弟
寺井の息子、玄達も先に立った。
大石主税も、すでに、その前、但馬にある母を訪ね、男山の八幡に父と共に詣でて、これも江戸へ先発している。
岡野金右衛門、武林唯七は、その一ヵ月前に。
――吉田、間瀬、不破、千葉、小野寺、踵を次いで、続々と京地を離れていたのである。そして、内蔵助が、念に念を入れた上の絹漉しで篩にかけたような人々のみが、水も洩らさぬ用意の下に、緻密な聯絡をとり合って、江戸表に深く脚を入れていた。
――秋も暮れて、元禄十五年の冬の小寒が、おとずれかけた頃である。
二階の従弟
本所二つ目の小間物屋善兵衛は、ついこの頃、紺暖簾をここに懸けたばかりの小さい店だった。
夏頃までは、鬢附油や松金油などの荷を背負っては、よくこの辺に行商に来ていた男で、
(あの小間物屋さんは、何て気さくな人だろう)
と、女達から騒がれていた。
本所にお花客が多いから、いっそ小さい店でもと、前触れしていたことが運んだとみえ、男世帯で女商売。
よく流行っている。
『――おや、お粂さんじゃありませんか。もしっ、吉良様のお粂さん』
きちんと、いつも店頭に、膝を四角に坐っている善兵衛は、いかにも小間物屋になりきっているが、神崎与五郎だったのである。