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しんぺんちゅうしんぐら

新編忠臣蔵

吉川 英治

「日の出」1935(昭和10)年1月号~1937(昭和12)年1月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 337,181 字 · 676 页

青空文庫

水調子夜船話

寺町裏

『――なぜ、止めんのじゃ』

と、細い膝頭を尖らせて真四角に坐った。

息子の幸右衛門が、

『いや、止めたのですが』

と言い訳すると、

『何にもならん』

聞く父ではない。頑固に、首を振って、

『平常、大石殿から、篤と申しおかれてあるに。……つまらん腕立て』

幸右衛門と共に立ち寄った潮田又之丞も、一緒に叱られている気がして、面目なさそうに、俯向いていた。

十内は、どこかへ外出する所らしかった。妻女の出す紙入、懐紙、莨入などを、きちっと、襟元の緊まった懐中に収めて、

『この浪宅の横丁へも、やれ紙屑屋の、膏薬売の、傘張のと、いろいろなものに化け居って、胡散くさいのが絶えず覗きに来るが、そういう手輩に、いちいちかまっていた日には限りがない。――いや、却って、彼奴等の策に乗るようなものじゃ。われ不関焉であればよい、柳に風と横向いているに限る』

『ですが父上』

幸右衛門は、又之丞が気の毒だった。で、つい、慎んでいた口を破って、

『そうばかりも成りますまい、彼奴等は、あわよくば、大石殿を初め、同腹の主なる者を、闇討ちしてしまおうという企みさえ抱いて居りますのに』

『だれが、吉良や千坂の廻し者などに、闇々、討たれる奴がわれ等の中にいる。