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しんぺんちゅうしんぐら

新編忠臣蔵

吉川 英治

「日の出」1935(昭和10)年1月号~1937(昭和12)年1月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 337,181 字 · 676 页

青空文庫

お軽が家

それを信じて、内蔵助もこの京都へ来てからは、何かと玄渓をよい相談相手とし、殊に同志の家族の病気といえば真っ先に見舞い、藩士の手ではなし難い家財の売払いとか、又、復讐につかう武器、火事装束の註文とか、殊には経済上の細かい事にいたるまで託されて、玄渓も、その信頼を裏切らなかったのに――近く内蔵助が江戸表へ下るという事になると、その同行を(まず、お見合せあるように)とのみで、断られたというのである。

『――まあ訊いてくれ、源吾殿。わしの不服が無理か、大石殿の断るのが尤もか』

『……弱りましたの。正直に申せば、拙者も大夫のお断りが御尤もだと心得る』

『なぜ?』

玄渓は、白い眉毛をうごかして、肩を尖らした。

『武士の道、医の道、自ら職分によって尽すべきことが違いまするでな』

『知っておる! ――然し、昔、華陀と申す支那の医家は、関羽の恩を慕って共に戦場に立ち、関羽が毒矢に中った時には、その疵を療治いたしておる。各※(二の字点、1-2-22)の義胆、その御苦労に、われ等も、微力ながらお供して参ろうというのに、何で、武と医との職分の差があると仰せられるか。お断りなさるのが、玄渓、解せんのでござるわい』