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しんぺんちゅうしんぐら
新編忠臣蔵
吉川 英治
「日の出」1935(昭和10)年1月号~1937(昭和12)年1月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 337,181 字 · 676 页
清流と濁流
梶川は、自分の頬から冷たい夕風が立つかと思えた。皮膚のたるんだ掌を当ててこすると、涙が老の顔にひろがった。ぶるぶると、尖った肩をふるわして、
『この腕め、うろたえ者め』
自分の腕を、恨めしげに、自分で打って、
『あの時、この腕さえ、要らざることをしなんだら、同じながらも、あの刃先は届いたであろうに……。ええ、この齢になって、生涯の悔をのこしてしもうた。……ゆるして下されい、内匠頭どの』
懐紙を取り出して、つつむように顔へ押し当てると、梶川は、老の弱腰を、べたっと下へくずしてしまった。
清流と濁流
同朋衆の珍阿弥から、
『御当番お四名の他、お目付役皆様、残らず、若年寄のお席まで、急いで出頭なされませ』
と呼ばれて、ぞろぞろと出て行った。一同は、やがて、悲痛ないろを眉に湛えて、自分たちの詰部屋へ戻って来た。
残っていた当番組の多門伝八郎が、すぐ、
『御裁決か』
訊くと、
『そうだ』
黙然と、一同は坐りこんで、
『不届につき、即刻、切腹仰せ付けられる――というお沙汰』
『吉良は』
『吉田休安に服薬方を仰せ付けられ、外科には、栗崎道有を遣わされて、大切に保養せいとあるので、はや退出した。