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しんぺんちゅうしんぐら
新編忠臣蔵
吉川 英治
「日の出」1935(昭和10)年1月号~1937(昭和12)年1月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 337,181 字 · 676 页
討入炬燵孫子
臆病風邪
『冬となっては、土中に眠る蟇も同じじゃ。からもう意気地がのうてな、無精を、ゆるされよ』
そう云って、いつも炬燵を前に、書物をのせた見台を左の傍に、そして、背中へは真綿を入れているとみえ、猫背になって見えるのである。
それに、この石町の浪宅が寒い向きに出来ている。障子を開けると、縁先に南天の赤い実は見えるが、仰ぐと、陽陰の雨樋から下がっている氷柱は、剣のように、この頃では、溶けた日がない。
『ただ今、もどりました』
主税であった。
『すんだか』
と、炬燵から云う。
『はい、皆様にもお手伝いを願いまして、一切』
『大儀だった』
明日の集合の廻状をまわして来たのである。だんだん馴れて迅速に暗号は行きわたるようになってはいるが、それでも、江戸中に散在している五十名以上のものへ、一刻のうちに、ここの中枢部の意志を伝えるには、いつもかなりの苦心であった。
その首脳部が、炬燵にうずくまって、
『主税、そこが少し隙いておるらしい。ぴたと閉めてくれ』
『閉まっております』
『そうかの、どこから風が洩れるのか』
『きょうの寒さは又、格別ですから』
『寒かったろう、外は』
『今日から十二月です』