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しんぺんちゅうしんぐら
新編忠臣蔵
吉川 英治
「日の出」1935(昭和10)年1月号~1937(昭和12)年1月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 337,181 字 · 676 页
誓約
こんな事を、この男がほんとに考えているのだろうか。
『死んで何う召さる?』
『誠心をもって、大学様のお取立を、哀願申しあげるのでござる。公儀も、さすれば臣子の心根を、或はお酌みとり下されようも知れぬ』
九郎兵衛は沈黙した。何か口先で反対のできないものが彼の本心にもあった。然し、殉死策は消極すぎると言いだす者が、前の硬論派の面々からやがて云い出された。
で、結局、
第一に、嘆願使を出して、大目附にすがってみる。万一、それが絶望となったら、籠城とする。こう決まったのが最後の評定で、大凶月の三月は暮れた。
四月に入ると、何か人の心が、がたっと滅入り落ちたように、城内はひっそりしてしまった。城下の侍町を見わたしても、沛雨の後のような淋しいものが、昼間でも漂っていた。
(それみろ)
九郎兵衛は、ひややかに笑った。
誓約
五日の日である。
きょうは、藩士へ対して、穀倉の残り分と、金子の配分があるということで、集合の布令があった。
ここ七日ほど会わない顔が集まった。心境も変ったろう。それに、きょうの頭には金というべつな意識が入っている。九郎兵衛の眼でも、いつぞやは激越な議論を吐いた者で、きょうは、醒めたように沈黙している顔を、幾つも見出した。