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しんぺんちゅうしんぐら

新編忠臣蔵

吉川 英治

「日の出」1935(昭和10)年1月号~1937(昭和12)年1月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 337,181 字 · 676 页

青空文庫

みぞれ酒

又、広間のほうでも、いったいここにいる人間は、「死」に対して、馬鹿になってしまったのではないかと疑われるくらい――正月でもあるせいもあろうが――夜毎に賑かな笑い声に盈ちているのだった。

『おお、相変らず、お賑わしい事でござるの』

『やあ伝右殿か。ここへござれ』

と、若い組の者は、もうこの人をまるでおじさん扱いだった。

それを又、喜んで、

『何ぞ、面白い話でもござってか』

『あるわ。まあ、お坐りなされ』

と、飄逸な片岡源五右衛門が、

『――今の、これにおる近松勘六めが、がらにものう、惚気をいうた』

『それはそれは、近頃、お珍らしい事ではある。して、どんな惚気を』

『江戸詰の頃、吉原に参って、初見の妓に強うもてなされ、門限までに帰りそびれたなどと、あの顔して――』

指さすと、勘六は、

『嘘、嘘』

と、慌てて手を振った。

他の者が、それを可笑しがって、

『やあ、武士が二言を言うぞ。伝右どのが見えてから急に』

『あははは、それくらいな事は、わしにもござったさ』

『ほ、ほ。こんどは伝右どのがお惚気か。これや何ぞ、奢っていただかねば相成らん』

『――持参した。これやどうでござるの。