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しんぺんちゅうしんぐら

新編忠臣蔵

吉川 英治

「日の出」1935(昭和10)年1月号~1937(昭和12)年1月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 337,181 字 · 676 页

青空文庫

土不踏

土不踏

夜が明ける、夜が来る、又夜が来る――。

仄暗い格天井へ、二間に配られてある燭台の明りが、静かな明りの暈を投げている。

借りうけた太平記を、潮田又之丞と富森助右衛門などが、一冊ずつ持って読んでいる。手紙を書く者、顔を寄せて密やかに何か語り合っている一組、それを横に聞きながら、する事もないように、紙縒で耳を掘っているのは、赤埴源蔵だった。

十七名がふた組に分れて、上之間に八人、下之間には、若いのが九人。

上之間の組には、老人が多く、中でいちばんの年長者が堀部弥兵衛老人、声音は物やわらかだが顔の怖い吉田忠左衛門、黙ったきりの間喜兵衛、時折、和歌などを詠んでしめす小野寺十内、それから間瀬久太夫や原惣右衛門などもそこにいて、これは時々、冗談を云う。

内蔵助は、床の間の席にいた。寒がり坊の両手は、いつも紅殻色の小蒲団の中だった。すこし斜に顔を上げ、その底知れぬ深謀の眸も、今はもう、何も思うことも考える事もないと云ったふうに、ぼんやりと半眼にして、次の間の若者たちを眺めたり、天井へ向けて空ろにしているのだった。

――と云って、毎日を、退屈しているという風も見えない。