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しんぺんちゅうしんぐら

新編忠臣蔵

吉川 英治

「日の出」1935(昭和10)年1月号~1937(昭和12)年1月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 337,181 字 · 676 页

青空文庫

雛鳥の籠

『まいど、有難うぞんじます。二つ目の相生町の米屋で――』

善兵衛は、店から、

『あ、米屋さんかい』

『へい、どこへお移しいたしましょうか』

『ちょっと待っておくれ。男世帯は、裏と表のかねあいだ。今すぐ行くから』

店に起って、善兵衛は、ちょっと暖簾先を落着いた眼でながめ――その眼を――あの儘、上って行ったきりしいんとして静かな二階の梯子段へ上げて、それから、そっと勝手へ出て来た。

『五兵衛さんか、御苦労だな』

米屋五兵衛というその男は、もうここの小間物屋より半年も前に、吉良家の裏門からすこし二つ目寄りの斜向いに店を持っていた同志の前原伊助であった。

糠だらけな顔――藁ごみにまみれている姿――。与五郎の善兵衛は、自分を忘れて、ふと、何とも云えない気持に胸を衝き上げられた。

五兵衛は、さあらぬ顔つきで、

『ここで、お秤量いたしましょうか』

『何の、正直で通っているお前さんの店の事だ。桝はたしかだろう。それにゃあ及ばない』

『皆さんが、そう仰しゃって下さるんで、勉強がいがあるってもんでございます』

『そこへ開けたら、まあ、温茶だが、一ぷくおあがり』

『有難うぞんじます。――やれやれ、陽が短くなりやしたね。