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しんぺんちゅうしんぐら

新編忠臣蔵

吉川 英治

「日の出」1935(昭和10)年1月号~1937(昭和12)年1月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 337,181 字 · 676 页

青空文庫

一代家来

こう二人が持てあましている敵というのは、吉良家無二のさむらい、上野介の一代家来と自ら云っている清水一学なのである。

大小二刀、左右の手に持って、

(来いっ、いくらでも)

と、云った構え。

まだ十分な余裕を、この男は呼吸しているのだった。

一学が駈けちらした先々で、赤穂方の者は幾人か傷を負って、駈け捨てられ、蹴捨てられ、切っ先の勢いに刎ね捨てられている。

池に落ち込んだ相手がある。縁先から踏み落ちた相手がある。しかし一学はまだ、膝一つ地に支いていなかった。左の小手のあたりに薄い掠り傷が一点見えるだけにすぎない。

これは、心臓のつよさか、胆力のつよさか、腕のつよさか。

覚悟の程では、赤穂方の者も、清水一学も、違わないものを抱いていた。四十七人のしている程度の心構えを、清水一学も疾くから身の裡にかためて、

(――ここを退いておれの武士道はない)

と絶対的な立場に立ち、大小の二剣を抜き払って、主人に対する忠誠――自分に対する潔白――侍一代の総仕舞いを、この雪の中と決めてかかっているのである。

横川勘平は気がみじかい。

この大敵をひろった事は、こよいの武運とは思うものの片がつかない。