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しんぺんちゅうしんぐら
新編忠臣蔵
吉川 英治
「日の出」1935(昭和10)年1月号~1937(昭和12)年1月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 337,181 字 · 676 页
すれちがい
よしよし遺書をして参ろうか。数右衛門、暫時、失礼申すぞ』
次の部屋へ入った惣右衛門は、小机のまえに坐って、丸い背を見せながら、何か巻紙の端に書いていた。天満川の櫓音が静かに聞えて来るのである。道頓堀の芝居櫓から眠たげな太鼓もながれてくる。
――ともすると、この穏かな四月の陽ざしと温い東南風の中に、人生の小安を偸んで楽しみたくなるような気持ちが、自分にも多分にあることを数右衛門は気がついていた。
『……実は、無理もないのだ、大野、大石などの重職の者が、ああなるのは。……だが、誰がどう生きようと、おれはおれの道をゆく。そうだ、おれの道を行こう』
すれちがい
京都へ行って、小野寺を訪えば、父子とも留守であるし、大高源吾を訪ねれば、これも昨夜から出て家にいないという。
同志の間には、少しも聯絡がとれていない。何か、ちりぢりばらばらな惰気が感じられて、惣右衛門は憤々した。
『日が経てば経つほど、こうなるのが人心の当然じゃが、それにせよ、歯がゆい有様。こんな事で、どうして、吉良殿に一矢の仇も酬われようか』
『山科には、誰かいるかも知れません』
数右衛門のほうが、却って、惣右衛門を宥めるようなことになっていた。