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しんぺんちゅうしんぐら
新編忠臣蔵
吉川 英治
「日の出」1935(昭和10)年1月号~1937(昭和12)年1月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 337,181 字 · 676 页
鎌倉血判
、つい、その遑もなく、肚と肚との黙契で今日まで来たのであるが、郡兵衛からその希望が出たのは、要するに、ことばの上だけでは、この両名に対しては、十分な信が持ち得ないのかも知れない。安兵衛は、言下に、
『よかろう、是非参ろう』
その場で、行く日までを、約束して別れた。
数日経つと、早朝に、
『堀部、支度はよいか』
と、彼の浪宅へ、郡兵衛が誘いに来た。
庭で、鋏の音がしている。もう一朝毎に花の小さくなり出した朝顔の垣越しに、植木鋏を持った白髪の老人が、
『よう、高田さんか、お入り』
と、庭の方を開けて云う。
安兵衛の父の堀部弥兵衛なのである。奥へ向って、
『幸。茶を持って来い』
と、植木鋏を、縁側へ置いた。
鎌倉血判
お幸は、敷物をすすめて、
『こんな、端近では』
と、郡兵衛へ、挨拶しながら、父の顔を見ると、
『なに、縁先は、却ってよいものじゃ、それに、草鞋を解かんでも済む』
『まあ、お勝手な事ばかり……』
『浪人礼儀。のう、郡兵衛どの、そうじゃないか』
『いつも、面白い事を仰しゃる』
郡兵衛は、茶を掌に上げて、
『安兵衛殿は、まだでござるか』
『何、とうに起きている。幸、伜は、何しておるか』