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しんぺんちゅうしんぐら

新編忠臣蔵

吉川 英治

「日の出」1935(昭和10)年1月号~1937(昭和12)年1月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 337,181 字 · 676 页

青空文庫

吉良家第一人

と、唱えたという事が、後日、大石瀬左衛門の口から、当夜の思い出ばなしのうちに語られている。瀬左衛門は、その折、すぐ側を駈けて通ったので、突かれた男の断末魔の念仏が、ふと耳へ入ったものであろう。

吉良家第一人

一党中での美男磯貝十郎左衛門は、こよいは鋭い眼じりを鉢金に吊りあげていた。右手の直槍の穂には、生々しく滴るものが蛭巻まで血ぬられ、装束の片袖は、敵の太刀に斬り裂かれて、鎖肌着の肩が出ている。

三村、村松、間の人々と共に、屋内へ突き進んで行ったのである。三村次郎左衛門は、掛矢を揮って戸障子や杉戸の建具を端から打ち外してゆく。

『おのれっ』

吉良家の取次役、清水団右衛門は、打外された杉戸の陰からあらわれて、三村へ向って斬りつけて来た。

『――おうっ』

三村の撲り返した掛矢の首が、壁を打った。どうっと崖崩れのように二人のあいだへ壁土が落ちる。

『推参っ』

間喜兵衛の十文字槍が横をふさぐと、団右衛門は度を失って大廊下へ転び出した。――キラと、誰の刃か、その影を横に薙ぎつける。

限りもなく敵は奥から次々に出て来た。広いにせよ、この一箇の邸に、こうも人間がいるかと思う程に――。