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しんぺんちゅうしんぐら

新編忠臣蔵

吉川 英治

「日の出」1935(昭和10)年1月号~1937(昭和12)年1月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 337,181 字 · 676 页

青空文庫

雪響き

それ等のあらゆる用意は、目的と行動の為の用意であったが、ただ一つ、こよいの目的にも行動にも関わりのない用意を――しかも総ての者が用意していた。それは何かというと、装束の肌着や錣頭巾の裡に、焚き秘めている香のにおいの、誰の姿にも薫々と漂う死後の嗜みであった。

雪響き

本所林町から松坂町へ。

およそ十町ばかりの道である。雪も風もやんでいたが、一陣の雪旋風が駈けて行った。

雪を蹴立てて先へ行く人々の足もとから、銀の光が煙って、後から黒々と続く人影を吹きなぐった。

二つ目橋の上にかかると、

『鐘だ!』

と、誰か云う。

『七刻――(午前四時)』

と、嘯くように木村岡右衛門。

ふと先へゆく神崎与五郎の襟元から、ヒラと落ちた物を拾い取って、

『与五郎どの、御辞世が落ちました』

と、その短冊を拾って渡しながら、又足も止めずに駈けながら、声高く読みあげた。

あずさ弓

春ちかければ小手の上の

雪をも花の吹雪とや見む

すると、すぐ後をうけて、間喜兵衛が自分の辞世を自分で朗詠した。

みやこ鳥

いざこと問わん武士の

恥ある世とは

知るや知らずや

『遊ばしたの! それがしも』

と小野寺十内も又、声を張りあげて、