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しんぺんちゅうしんぐら
新編忠臣蔵
吉川 英治
「日の出」1935(昭和10)年1月号~1937(昭和12)年1月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 337,181 字 · 676 页
吉良家往来
公の事については、一切、口をさし挾まないことが、貞淑であり、婦徳とされているのである。
内匠頭は、ちらと夫人の横顔を見た。清廉潔白な士道の君主として、今日まで、公私の行状に、些細な瑕も持たない人であった。顔をうなずかせて、すぐに云った。
『そち達の思案でよかろう。要は、礼儀を失わぬことじゃ。計ろうておけ』
吉良家往来
二羽の鍋鶴が、水のほとりで、汚れた翼をひろげていた。青銅の大きな燈籠やら、巨きな伊豆石やらが、泉水をかこんでいる。
今、出入の骨董屋が、本阿弥の手紙を添えて置いて行った周文の軸を展げて、その画面へ、虫でも覗くように、眼鏡をかけて屈みこんでいた吉良上野介は、鍋鶴の羽音に、顔を上げて、不機嫌な皺を、白髪眉にひそめた。
『おい、おい。孫兵衛』
『はっ』
用人部屋の返辞と一しょに、縁先へ、跫足がした。
『小ぎたない鍋鶴めが、また水を濁して、燈籠やら、茶室の窓を汚し居る。芸もない生物、餌の費えもうるさい、町の禽商人を呼んで、幾値にでも下げ渡してしまえ』
『仰せではございますが、牧野様からの贈り物、売り払ったことが、先へ知れたら気を悪くいたしましょう。――殊には、生類御憐愍という、御法令のやかましい手前にも』