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しんぺんちゅうしんぐら
新編忠臣蔵
吉川 英治
「日の出」1935(昭和10)年1月号~1937(昭和12)年1月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 337,181 字 · 676 页
炬燵を出る
職人町の間に挾まってうす汚い古寺だった。
そこへよく、横川勘平は遊びにゆく。
『盲阿弥さん、居てござるか』
と、狭い方丈へ声をかけると、口真似して、そこから、
『居てござるよ』
と、気だてのおもしろい五十ばかりの沙門が出て来るのだった。
この沙門の名を勘平は知らなかった。近所の者たちが、そう呼ぶので、彼もそれに倣って呼んでいるが、本人はべつにひがみもしない。文字どおりこの僧は盲目なのだ。まったくものの色も見えないらしい。
横川勘平は、赤穂表にいた頃は、煙硝庫御番をつとめていたので、鉄砲の事に興味をもつ。この僧も、眼があいていた頃は、一火流の砲術などを習って、さかんに殺生をやったというような話から、いつか懇意になっていた。
『――そうそう、あんたが来たら、ちょっと見てもらおうと思うていたのじゃ、毎度あいすまんが、読んで聞かせてくださらぬか』
思い出したように、盲阿弥が云う。
これは、彼のいう通り、毎度の御用なのであった。然し、勘平はいつも、煩わしい顔もせず、文書のことは、よく見てやっていた。
『手紙ですか』
『そうなんじゃ』
と、小机の上から、盲阿弥は手探りで、一通の書面を取りあげ、