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しんぺんちゅうしんぐら
新編忠臣蔵
吉川 英治
「日の出」1935(昭和10)年1月号~1937(昭和12)年1月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 337,181 字 · 676 页
彼岸の人々
本堂へ上った浪人たちは、思い思いに寛ぎながら、畳の上に坐っている自分の体を、夢のように考えていた。
一同の人名と、聞書を取って、先刻、寺社奉行へ届けに出て行った長恩和尚は、やがて帰ってくると、どこかに、安心したような色を顔にたたえ、
『やあ、おかまいもせんで――』
と、くだけた様子を示しながら、本堂へ出て来た。
『禅家には、御承知のとおり葷酒山門に入るを許さず――という厳則がござりますが、各※(二の字点、1-2-22)方もおつかれの御様子故、ただ今、粗酒を一献いいつけておきました。……粥もやがて炊けましょう、どうぞ、ゆるゆる御休息くださるように』
内蔵助は、その挨拶を謝して、
『禁盃の寺内に於いて、御酒を頂戴いたしては如何と思いますが、せっかくの御芳志、又、この中には嫌いが少い事でもあれば、お志に甘えて、存分に喰べ申す』
『さあ、お気づかいなく』
大盃小盃、思い思いに手にして傾けるのだった。内蔵助の眼のふちも、いつになく紅くなった。
『土中の白骨どもが、思いがけない温情にあずかりました』
誰かが、そう云った。
(そうだ――自分たちはもう疾くに――土中の白骨であったのだ)