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しんぺんちゅうしんぐら
新編忠臣蔵
吉川 英治
「日の出」1935(昭和10)年1月号~1937(昭和12)年1月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 337,181 字 · 676 页
両持ち論議
『江戸は何うしてこう野良犬が多いのだろう。犬のやつが吠えて仕方がない』
『夜歩きには附き物だ』
『あれ、又来おった、何うしてくれよう』
『だめだ、いくら追ったって駄目だよ。関わずに急ごう』
『どうして』
『においがするに違いない。犬の鼻は利くからな』
『え? ……』
と、丸い荷物を抱えている方の若僧は、自分の持っているそれへ眼を落して、ちょっと嫌な顔をしながら、
『ア、そうか。……首桶に入っていても、分るかなあ』
『煩悩の犬とさえ云うじゃないか』
『違いない! ――。この辺はもう永代橋に近いな、本所迄はずいぶんある。――彼方のぽっと明るく見える空は、堺町の芝居小屋か』
『そうらしい、音曲の音がかすかに流れてくる。こうして、人間の生首を持って、夜道をお使者に行く者もあるし』
『世はさまざまだ……。それにしても、四家へお預けになった赤穂の浪人方は、今夜は、どんな気持でいるやら』
『ここへ来る途中も、辻々でその噂だ。まだ公儀お預けとだけで、彼の衆の処分は決まらない。忠義のためにやった事だ、忠義は国の精神の礎であるから、当然、御助命だろうと云っている者もあるし、いやたとえ忠義の道は踏んでも、国の大法を踏み紊したのだから、刑にするのがほんとだ。