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しんぺんちゅうしんぐら

新編忠臣蔵

吉川 英治

「日の出」1935(昭和10)年1月号~1937(昭和12)年1月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 337,181 字 · 676 页

青空文庫

久不許逗留

内蔵助は、そんな空想まで描いた。……宵に、したたか飲んだ酒の名ごりが、うつつと、夢のあいだに、想念の遊戯をほしいままにするものかも知れない。とにかく、いつ迄も……やがて仄かに、小窓が白みそめる頃まで幾たびか、寝返りを打っていた。

遊廓のうちは、夜明けの一ときに、真の夜半のようなひそまりが、しいんと、屋の棟に下りてくる。内蔵助は、夜具のえりを、深く被った。

久不許逗留

淀屋の一座が帰った後も、浮大尽は帰らなかった。

きょうも、だだら遊びの流連が、西陽の頃までつづいていた。

『よくもまあ、遊び疲れぬものじゃて』

内証の笹屋喜右衛門は、商売とはいえ、さすがに少しあきれ顔だった。

『旦那さま』

あわただしい顔いろを持った仲居だった。

『なんじゃ』

『ちょっと、来てくださいませ』

『どこへ』

『浮さまがもう……。困ったことばかりなされて、手を焼きまする』

『何をなされたのじゃ』

喜右衛門は、仲居について、走って行った。

『あっ……』

見ると、この春、普請したばかりの新座敷の天井へ向って、炬燵櫓をかさねて踏み台にし、浮大尽は、筆を持って何か書きちらしているのだった。

一人の妓が硯を捧げ、一人の妓は、その腰をささえていた。