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しんぺんちゅうしんぐら
新編忠臣蔵
吉川 英治
「日の出」1935(昭和10)年1月号~1937(昭和12)年1月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 337,181 字 · 676 页
紙位牌
左右田孫八郎は、一同へはそう口止めして措いて、丈八へは、
『後刻』
と云い残して、奥へかくれた。
紙位牌
清水一学、小林平八郎、大須賀次郎右衛門などの住んでいる長屋が、邸内の隅に、一廓となって、入口をならべていた。
『居るか』
丈八は、一学の家を覗いた。昼間は、たいがい長屋にもどって、休息している一学であった。寝転んでいたらしく、
『木村か、めずらしいなあ』
と、奥で坐り直す。
書面は絶えずやり取りしているが、お互いに会う間はすくなかった。去年、赤穂から帰りに、吉良家の知行所である三河の幡豆郷へ立ち寄って、一学の生れた茅葺屋根の家で、老母の手で田舎蕎麦を馳走され、一晩泊って語り明かした――あれ以来であったかとおもう。
『しばらく』
『やあ、達者だな』
『そうでもない。秋口から、風邪をこじらせて、二月ほど病床に、仆れていた』
『もう快いのか』
『やっと起きて、足馴らしに出て来たのだ』
そのせいか、丈八の頬には、すこし痩せが見える。姿も前とは変ってしまった。一頃、赤穂方面や京都あたりを、隠密として歩いていた頃の彼は、頭も町人髷であったが、今日見ると、病床で伸ばした髪をそのまま結んで、以前の侍髷に返っている。