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しんぺんちゅうしんぐら

新編忠臣蔵

吉川 英治

「日の出」1935(昭和10)年1月号~1937(昭和12)年1月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 337,181 字 · 676 页

青空文庫

松坂町界隈

紙屑返し

『――富士の御狩の、折を得て、折を得て――』

と、曾我を舞った。

それを、微笑をふくみながら見ている間に、内蔵助の膳の前には、又幾つも杯がたまるのであった。

松坂町界隈

紙屑返し

鞍馬口の往来は白く焦けきっている。油蝉の死骸に蟻がたかっているのも暑い。

大高源吾は、草履の裏を焦かれながら、炎天に立って待っていたが、やがて、前の葉茶屋の店先から戻って来た貝賀弥左衛門の姿を見ると、

『わかったか?』

弥左衛門は、うなずいて、黙々と先に歩いて行く。汗が、茶帷子の背に滲み出している。寺院の築地をすぐ横へ曲った。百日紅の花がすぐ眼について、

『此処だ……』

と、弥左衛門は門札を指さして立ちどまった。

長沢六郎左衛門。――間違いはない。

町家の隠居所でもありそうな清洒な門を開けて、訪れると、奥で聞えていた陽気な女達の声がやんで、簀戸の蔭から四十前後の薄化粧した妻女が、何気なく出て来たらしいが、炎天に汚れて来た二人の客の姿を見ると、あっと云って、挨拶もそこそこ、一度奥へもどって行った。

『よう、おめずらしい!』

と、次に姿を見せたのは、主人の六郎左衛門であった。水団扇を手に、