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しんぺんちゅうしんぐら

新編忠臣蔵

吉川 英治

「日の出」1935(昭和10)年1月号~1937(昭和12)年1月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 337,181 字 · 676 页

青空文庫

冬の風

どうせ、ろくな真似をしたんじゃございますまい。お邸へ対しても済まねえことです。帰ったら、うんと、窮命してやらなくっちゃなりません』

お粂は、そういう父親のうしろから、一学の家の窓へ、掌をあわせていた。

冬の風

十一月に入ってからである。深川の高橋の近くにある吉五郎の家へ、何か、忙々した態度で、新見弥七郎が訪ねて来た。吉五郎に会うと、すぐ用談を切り出した。

『ちと、時が経ったが、もいちど其方の娘を取調べたい儀があって参った』

と云うのである。

『ヘエ?』

と、これは吉五郎のほうで、意外とした顔つきだった。

『余の儀でもないが、今度は、前よりも重大なのだ。殿のお居間に近い御文庫のうちから、先頃紛失した板絵図どころではない、公儀へお届けの地割図面と、お邸の間取図の二帖の写しが、いつの間にか失くなっているのじゃ』

聞いているうちに、吉五郎の顔いろには、憤かッとしたものが漲っていた。

『そいつあ、度々の御災難でございますね。ですが、いったい、それに就いて、娘を調べたいというのは、何ういうわけですか』

『前の事もあるので、一応は、疑ってみるのじゃ』

『ヘエ、じゃあ、その二帖の写しを盗んだ下手人も、娘のお粂だと仰しゃるわけなんで』