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しんぺんちゅうしんぐら
新編忠臣蔵
吉川 英治
「日の出」1935(昭和10)年1月号~1937(昭和12)年1月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 337,181 字 · 676 页
人間相場
何か、手持ち無沙汰な使者は、妙に、冷たい用人の挨拶にだけ送られて、匆々と、吉良家から帰って行くのであった。
その後である。
『なんじゃ! 五万三千石の浅野家ともあろうものが、巻絹一台の手土産とは、何事だ。高家筆頭の吉良の玄関を辱しめるにも程がある』
露骨な罵り声が、上野介の口から熄まなかった。遣り場のない不機嫌さは、晩酌の味にまで祟って、
『酒がまずい』
と、こじれて居た。
そして、当て外れの苦虫を、噛みつぶして、
『大名の子一人、林家の塾へやっても、巻絹の一台ぐらいは、束脩に持たせてやる。それを、幕府第一の大礼とする勅使饗応の重い役目を拝して、故事諸式の作法を、此方から指図を仰ごうという大藩の主が、今日の挨拶振りは、何たることだ。人を小馬鹿にするも甚しい。自体、内匠頭とやらは、吝嗇家の物知らずとみえる。こんな、田舎漢に、堂上方の歓待役が勤まってたまろうか』
側にいる家来達も、面をそむけたくなる程、いつ迄も、ぶつぶつ云っていた。
人間相場
いま、物を買うとき、売るときには、きまって、こんな会話が出る。
(高えなア。むかしの金の何十倍だ)
(むかしなら、これで、風呂へ行って、一ぱい飲めた程なのに、今じゃあ、子どもの飴玉三ツも買えないんだよ)