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しんぺんちゅうしんぐら

新編忠臣蔵

吉川 英治

「日の出」1935(昭和10)年1月号~1937(昭和12)年1月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 337,181 字 · 676 页

青空文庫

まだ・まだ・まだ

(冬の陽ざしはよいもの……)

と、明日の死はともかくとして、今日は今日の一日を、もう残り少い人生を、心に沁みて、味わって行こうとするらしい居住居の者と、墨を磨って黙想する者と、又何か暢気ばなしに笑いあう者と――日は変っても、日課はきのうと変りがない。

今日も、伝右衛門が、にこにこ顔で何か抱えてみえた。

『御一同、きょうから、煙草のおゆるしが出ましたぞ。持って参った。さ、おつけなされい』

と云う。

これは望外なことだ。慾はあったが、誰も忘れていたくらいである。ここにいる者の殆どが煙草ずきであったが、細川藩では、太守の越中守からして、煙草ぎらいで、禁煙は藩風のようになっているのに――それを何うして伝右衛門が、殿の許可を得て来たのか。

『煙草盆は、置くわけに参りませぬが、御所望の折には、いつでも差上げます』

『は……これは』

欣ぶよりも、何かしら一同は粛然としてしまった。実篤な奥田孫太夫は、眼をしばたたいているし、弥兵衛老人は、後を向いて、鼻紙を鳴らしている。

『さ、さ、どうぞ』

すすめる。礼を云う。口にあらわすべき言葉がない。

『では、御好意にあまえて』

煙管を押しいただいて、原惣右衛門が手に取ったが、自分が先に吸うのではなく、