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しんぺんちゅうしんぐら

新編忠臣蔵

吉川 英治

「日の出」1935(昭和10)年1月号~1937(昭和12)年1月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 337,181 字 · 676 页

青空文庫

田村屋敷

一糸紊れない態度だったし、短時間のうちに引揚げて行った行動の迅速さに、能登守の家臣たちは、思わず、

『見事っ』

と、驚嘆を送った。

まだ、春の夕雲は赤かったが、惣右は、十幾艘の舳々に提灯を用意させて、八代洲堀を矢のように漕がせて去った。

ちょうどその頃――。

一方には、主人の遺骸を引取りの使として、お留守居建部喜八、用人糧谷勘左衛門、小納戸田中貞四郎、中村清右衛門、磯貝十郎左衛門などの同僚たちは、もう鉄砲洲の藩邸を出て、早くも噂の伝わった江戸の町々の人目に見まもられながら、芝の田村右京太夫の邸へと、真っ暗な滅失を、粛々と踏んで、かなしくも何処かの橋を、渡っている頃なのであった。

田村屋敷

花の愛宕山に、夕雲が紅かった。

網をかけた一挺の乗物が、足軽の棒と、厳しい槍組の武士に囲まれて、江戸城の平河口から、日比谷御門、桜田の辻を通って、芝愛宕山下の田村屋敷へ着いたのは、もう申の下刻に近い。

邸内には、すでに、大工が来て、板囲いの一室が出来ていた。玄関からずっと、不浄筵を敷いて、網乗物のまま、そこへ舁きこむ。

『内匠頭どの。お出なさい』

網と、駕籠戸を払われて、