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しんぺんちゅうしんぐら
新編忠臣蔵
吉川 英治
「日の出」1935(昭和10)年1月号~1937(昭和12)年1月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 337,181 字 · 676 页
泉岳寺炉辺話
時の門
かれらは、雪にかがやく、人間のすがたを見、正しく、犬以上のものである人間を発見した。同時に、それは自分の人間の発見でもあった。四つ辻や道傍にかたまっている無数の小市民の顔には、今更のように武士という階級に対しての新しい認識を持ち直し、そして黙っている中に、
(やはりおれ達とは違う。いや、おれたちも実は、決して、畜生以下のものじゃない)
と、何か日頃の町の人々よりは、香気のある、より美しい、そして、尊敬に似た羨望すら感じながら、凝と、過ぎゆく浪人たちのほがらかな面や服装を、不思議なもののように見送っていたのであった。
引揚の道順は、
お船蔵の裏通りから永代橋へ――そして霊岸島――鉄砲洲――汐留橋――日比谷――仙石邸前――伊達家前――金杉橋――
と経て泉岳寺へ行き着く予定。松坂町からそこ迄は、ざっと、二里ほどの道である。
『御老人、おつかれであろう、駕に召されい』
内蔵助は、弥兵衛老人をふり向いてこう劬わった。老人は例の気性で、なあにと首を振ってあるきつづけていたが、若い人たちとの足幅が一致しないので、お船蔵あたりから町駕へ乗った。
原惣右衛門や、近松勘六や、神崎などの傷負の者も、すすめられて途中から駕にした。