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しんぺんちゅうしんぐら
新編忠臣蔵
吉川 英治
「日の出」1935(昭和10)年1月号~1937(昭和12)年1月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 337,181 字 · 676 页
上杉家不戦始末
豆腐屋飛脚
『おくら、誰か店の戸を叩いているぜ。おそろしく荒っぽい奴だ。戸を開けて、聾が住んでいるんじゃねえとそう云ってやれ』
『まだ、夜が明けないのに、何処のそそっかし屋だろう。――今開けてやるからお待ちよ、戸が壊れてしまわあね』
だが、戸外に立っている者は、なお烈しく叩きつづけて、
『寝ているのか、儀助。おれだ、木村丈八だ。――早く開けてくれ』
『あっ、木村の旦那らしいぞ』
氷の張っている流し場で、儀助の穿いている足駄の歯があぶなく、勢よく辷りかける。
『旦那ですか』
『おれだ。たいへんな事が起ったのだ。――頼みがある、早くいたせ』
『今開けます』
閾も堅く凍りついているのである。力をこめて引き開けると、外は、眼も眩むばかりに白い雪と朝の月影だった。
ここの豆腐屋は、吉良家の台所へ出入りしていて、正直者で通っているし、若侍たちが夜遊びに出る時だの、何かの足溜りにもなっていて、丈八とも常から懇意な儀助であった。
『まあ、お入りなさいまし。こんなに早く、何うなすったんです』
『知らないのか』
『知らないのかとは』
『吉良殿へ、とうとう、赤穂浪人の輩が、討入したのを』
『げえっ、いつですか』