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しんぺんちゅうしんぐら
新編忠臣蔵
吉川 英治
「日の出」1935(昭和10)年1月号~1937(昭和12)年1月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 337,181 字 · 676 页
元禄型
人間、飢ゆると何を為出来すかわからん。怖いのは火の用心だよ』
『まあ、はやく戻って、井戸水でも浴びるがいい。話し相手が迷惑だ』
裏門の潜りがすこし開いていた。提灯の明りが中で揺らめいている。見張りの小者が、何か物音を聞いたというので、神経過敏になっている邸内でも、その物音の実体を、四、五人して調べているのだった。
元禄型
『こう、何だと、丑』
『何がなんでえ、何うしたってんだ』
『汝、今おれの振ったつぼを、いかさまだと云やがったな』
『おお辰。洒落た苦情をいうなあ。この賭場ばかりじゃねえ。何処の場でも、汝の小細工は名うての事じゃねえか』
『吐ざきやがったな』
『ざまを見ろ、ほしを突かれやがって』
『出ろっ、戸外へ』
『おれが起つ筋あいはねえ』
『出ねえかっ、腰抜けっ』
賽をつかんで、目つぶしに、喧嘩相手の顔へ打つける。何をっと、相手も負けてはいない。手当り次第である。煙草入、つぼ、茶碗、と抛りつけた。
組んで、撲り合う丑と辰を、総立ちで、周りの者は止めにかかった。大きな脛が行燈を蹴る、棚の物ががらがら落ちる。
『――五兵衛さん、五兵衛さん。――ちょっと来ておくんなさい、大急ぎで』