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しんぺんちゅうしんぐら
新編忠臣蔵
吉川 英治
「日の出」1935(昭和10)年1月号~1937(昭和12)年1月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 337,181 字 · 676 页
米沢後詰
萠黄唐草
そして、その主君の魂は今、自分の肩に手をかけられて、共に、この痛恨そのもののような天地を凝と見つめているであろうように考える。
二の丸の森から、鴉が翼を搏って群立った。その啼き声までが、意味ありげに胸を打つ。
貝が鳴る。やがて又、太鼓の音が受城使の陣でながれた。海と空が、一瞬ごとに、白々と二つのものにわかれて来て、やがて、真っ赤な太陽の放射が、海を走り、石垣を染め、樹々にかがやき、城の屋根の角々に燦々光った。
今朝、人手に渡す城の何という美しさだろう。
『そうだ、卯の刻』
開かれた大手門の濠端には、もう正使の通路を守る兵の一隊が列を作りかけていた。
(さらばだぞ、赤穂の城――)
胸のうちにこう告げて、内蔵助はもう一度四方を見まわした。せめてもの爽々しさは、見るかぎりのところ、心ゆくまで清掃の届いていることであった。
米沢後詰
萠黄唐草
釣でも垂れているよりほか今のところは為す事もないのである。これで高禄を食んでいる身かと考えると、主人へ対してよりも、野良に年貢米の植付をしている百姓に対して、済まないような気恥かしさを時に覚える。
清水一学は、今日も黙然と、雲母川堤から、一竿を伸ばしていた。