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しんぺんちゅうしんぐら

新編忠臣蔵

吉川 英治

「日の出」1935(昭和10)年1月号~1937(昭和12)年1月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 337,181 字 · 676 页

青空文庫

自作唄

『浮様、お大尽さま』

『うるさい。……もうすこし、ねかせておけ』

『お起きなされませ。伏見へ着いたのでございます』

『いやじゃ……わしは眠たい』

『では、この儘、京都までのぼりますか。夕霧さんに、お会いなされませぬか』

『なに……夕霧が来たか』

『いいえ、伏見でございまする』

『伏見か、それは一大事。こんど、夕霧に顔を見せねば、わが身は殺されるかも知れぬ。……行こう』

『あ、あぶのうございます』

『竹之丞、負うてくれ』

『負えませぬ。肩へ、おすがりなされませ』

『お艶、そちは、左へ来い』

『まあ……船が揺れる。お船頭さん、よく抑えていて下さいよ』

両方の腕を援けられて、内蔵助は、やっと陸へ上って行った。

『なんじゃ』

『あの態は』

口々に、船のうちに残った者は、嘲笑した。そして、後の空席に、伸々と、坐をひろげて、

『これで、爽々しましたよ!』

『だが、曾根崎の芸妓だけは、残して置いてくれてもよかったな』

『はははは』

すると、ぷいと、その笑い声の中から突っ立った町人があった。旅合羽に手甲脚絆、きびきびとした素草鞋、どこか、抜目のない様子、旅稼ぎの遊び人かとも見える。

『あ、つい寝てしまった。