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しんぺんちゅうしんぐら

新編忠臣蔵

吉川 英治

「日の出」1935(昭和10)年1月号~1937(昭和12)年1月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 337,181 字 · 676 页

青空文庫

鶴を追う

『どのような人態でございましたか』

『鶴の餌を持って来たと云うた』

『では、お台所へ毎日見える蒲焼屋でございましょう。あれなら、仔細はございませぬ、御安堵なさいませ』

『そうか……』

肩を落して、左兵衛佐は、大きく息をついた。持っていた半弓を、

『多仲』

と、呼んで、近習の一人へ、手渡した。そして、

『多仲、これで、あの鍋鶴を射てしまえ』

と、池の向う側に屈みこんでいる三羽の鍋鶴を、顎で指した。

『え。鶴をですか』

『そうじゃよ』

『なんで鶴を射てしまえと御意なさるのですか。一応は大殿へもお伺いしてみなければ』

『父へは、わしから告げるからよい。今、自身で射殺してしまおうと思うていたところなのだ』

『今度、お引移りになる本所のお屋敷にも、かなり広い泉水があるそうですから、鶴も、それへ移せば仔細はございますまいが』

『この鍋鶴は、縁喜がようない。支那では、不吉な鳥というそうだが、ほんとに不吉だぞよ。どこの大名か、この厄介者を音物に担ぎこんで来たのが、今年の正月の十四日じゃった。それから、浅野内匠頭めが、父へ、殿中で斬りつけたのが、三月の十四日。――又、こん度、お屋敷替の沙汰が下ったのが九月十四日だったではないか』