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しんぺんちゅうしんぐら

新編忠臣蔵

吉川 英治

「日の出」1935(昭和10)年1月号~1937(昭和12)年1月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 337,181 字 · 676 页

青空文庫

二つの道

今日の寄合の通牒も出してあるのに、その席へは顔を出さないで、ここに来て長々と待っていることも解せない。その他、鎌倉の連判以来、彼はどうかしている。

『茶をくれい』

居間に坐りこむと、

『でも、だいぶ永い間、凝と待ちあぐねていらっしゃいますが……』

『まあよい。後で会う』

凝と、ひとりで、茶を喫しているうちに、安兵衛は、何かうっすらと、郡兵衛の用向が感じられて来た。

(そうか)

と、思うだけだった。

静かに起って、客間の襖を開けた。沈湎と、灯りを横に、坐りくたびれていた郡兵衛の顔が、

『やあ……』

と仰向いて、席をひらいた。

常のように、笑えないものが、すぐ二人の面をつつんでしまった。射るように向けた安兵衛の眸の光に、彼は、俯向いてしまっている。

いつまでも言葉がない。安兵衛も、無言に任せている。お幸の袂が、静かに畳へ触って、茶をおいて去っただけである。

ぱら……と云う涙の音が郡兵衛の顔の下でした。はっとしたように、彼の拳は顔へ行っている。

肩の中へ、顔はだんだんに埋ってゆくのだ。

『堀部っ! ……。ゆ、ゆるしてくれ』

肱まで、べたっと畳へついて、郡兵衛は訴えた。