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しんらん

親鸞

吉川 英治

「名古屋新聞」1934(昭和9)年9月28日~1935(昭和10)年8月9日、1936(昭和11)年1月19日~8月<br>「台湾日日新報 夕刊」1934(昭和9)年9月30日~1935(昭和10)年8月12日、1936(昭和11)年1月7日~8月4日<br>「京城日報」1934(昭和9)年9月~1935(昭和10)年8月、1936(昭和11)年1月10日~8月<br>「神戸新聞」1936(昭和11)年1月5日~8月6日<br>「福日新聞」「北海タイムス」1935(昭和10)年9月~1936(昭和11)年8月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 566,138 字 · 1127 页

青空文庫

山ざくらの花である。

迦陵頻伽の声ともきこえる山千禽のチチとさえずる朝――根本中堂のあたりから手をかざして、霞の底の京洛をながめると、そこには悠久とながれる加茂の一水が帯のように光っているだけで、人間の箇々の消長や、文化の変転の何ものをも見ることはできなかったけれども、麓から登ってくるものの噂によると、どうして、この半年ほどの間に、世間のなかの変りようは、絵にも口にも尽すことができないという――

まず、去年からの飢饉のために、盗賊がふえたことは大変なものであるとのことだ。都といわず、田舎といわず野盗の類、海盗の輩が跳梁して、政府をあるかなきがごとく、横行して、良民を泣かしているということである。

それも、平家の政庁が、あるにはあって、なんらの善政をしこうともせず、中央は、中央で一時的の享楽にこの幾年を送り、地方は地方で、小吏が京洛の悪風をまねて、ただ良民をくるしめて、自己の悦楽を事としていたので、その余憤も駆られ、その隙にも乗じたのが、皆、矛をとって、賊に化ったような傾きもある。

のみならず、昨年来、関東の方から起った源氏の革新的な軍勢は、日のたつにしたがってその勢いはあなどり難いものになっている。