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しんらん

親鸞

吉川 英治

「名古屋新聞」1934(昭和9)年9月28日~1935(昭和10)年8月9日、1936(昭和11)年1月19日~8月<br>「台湾日日新報 夕刊」1934(昭和9)年9月30日~1935(昭和10)年8月12日、1936(昭和11)年1月7日~8月4日<br>「京城日報」1934(昭和9)年9月~1935(昭和10)年8月、1936(昭和11)年1月10日~8月<br>「神戸新聞」1936(昭和11)年1月5日~8月6日<br>「福日新聞」「北海タイムス」1935(昭和10)年9月~1936(昭和11)年8月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 566,138 字 · 1127 页

青空文庫

青春譜

一

要するに、成田兵衛という者の家庭は知らないが、家庭の罪に違いない。全盛の世には、思いあがらせて育て、没落する時には、ねじけ者に作ってしまったものだろう。そして、すべての逆境が、みな自分の罪とは思えず、他人のせいのように考える人間が、いつとはなく、今日の弁海になってきたのではあるまいか。

(こんな、ねじけ者に、範宴様を会わせて、怪我でもおさせ申したらつまらぬことだ。逃げるに如くはない)性善坊は、道を横に反らして、眼をつぶって、どこまでも逃げた。

青春譜

一

どこで行きちがったのか、範宴は性善坊とはぐれて、奈良の杉林のあたりに、ただ一人でたたずんでいた。

そして町の方から来る人影を黄昏れのころまで克明に待ちつつ見まもっていたが、性善坊らしい者は見えなかった。

もうここまで来れば、行く先の法隆寺は近いし、先にそこへさえ行っていれば、後から彼の来ることはわかっているが、

「どうしたのか」と性善坊の身も案じられ、またせっかくの連れを捨てて、先へ行く気も出なかった。

幾百年も経たような杉の梢が、亭々と、宵の空をおおっていた。空は月の冴えに、黄昏れのころよりは澄明な浅黄いろに澄んでいて、樹蔭の暗い所と、月光で昼間のような所とが、くっきりと、縞や斑になっていた。