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しんらん

親鸞

吉川 英治

「名古屋新聞」1934(昭和9)年9月28日~1935(昭和10)年8月9日、1936(昭和11)年1月19日~8月<br>「台湾日日新報 夕刊」1934(昭和9)年9月30日~1935(昭和10)年8月12日、1936(昭和11)年1月7日~8月4日<br>「京城日報」1934(昭和9)年9月~1935(昭和10)年8月、1936(昭和11)年1月10日~8月<br>「神戸新聞」1936(昭和11)年1月5日~8月6日<br>「福日新聞」「北海タイムス」1935(昭和10)年9月~1936(昭和11)年8月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 566,138 字 · 1127 页

青空文庫

峰阿弥がたり

一

やがて、一輛の牛車に、二人の客が同乗してきた。むろん、範宴と慈円僧正である。

「お待ち申しておりました」家臣は、列を作して迎えた。禅閤は式台まで出迎えて、

「ようこそ」と、みずから客殿へ導いてゆく。

前の摂政太政大臣であり関白の重職にまでなった禅閤兼実の住居だけあって、その豪壮な庭構えや室内の調度の贅沢さには眼も心も奪われるような心地がする。

範宴は、数年前に、師の僧正と一伴に、いちどここへ来たことがある。その時は、見るかげもなく痩せおとろえて旅から帰ってきたばかりであったし、自身もまだ名もない一学徒にすぎなかったので、ここの家臣たちは誰もその時のみすぼらしい若法師がこよいの主客であるとは気がついていないようであった。大勢の侍女たちと一緒に何か遊戯をしている所へ来あわせたので、自分にも眼かくしをせよといって困らせられたことを範宴は今ぼんやりと思い出していた。

その姫はまだ顔を見せなかった。たくさんな燭のあいだを美しい人々が高坏やら膳やら配ってまわる。みな一門の人々であろう、範宴と僧正とを中心にして十人以上の人々がいながれている。

「酒は参られるのか」