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しんらん

親鸞

吉川 英治

「名古屋新聞」1934(昭和9)年9月28日~1935(昭和10)年8月9日、1936(昭和11)年1月19日~8月<br>「台湾日日新報 夕刊」1934(昭和9)年9月30日~1935(昭和10)年8月12日、1936(昭和11)年1月7日~8月4日<br>「京城日報」1934(昭和9)年9月~1935(昭和10)年8月、1936(昭和11)年1月10日~8月<br>「神戸新聞」1936(昭和11)年1月5日~8月6日<br>「福日新聞」「北海タイムス」1935(昭和10)年9月~1936(昭和11)年8月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 566,138 字 · 1127 页

青空文庫

六

さきの太政大臣平の朝臣

清盛公と申しし人のありさまこそ

詞も筆おろかよ、及ばね

その先祖をたずぬれば

桓武天皇第五の皇子

葛原親王九代の後胤――

曲はすすみ、夜は更けて行った。人は在るが無いように。ただ、落花の影だけが、暗い蔀の外に舞っていた。

六

平家の曲の大部を残らず弾くとすれば、夜の明けるまで語ってもとても語り切れる長さではない。峰阿弥はその大部なものの要所だけを縫って、たくみに、平家一門の華やかな一時代と幾多の儚い物語とを綴って、やがて屋島から壇の浦の末路へまで語りつづけてきた。

二位殿は日頃より

思い設け給える事なれば

にぶ色の二つ衣うち被き

練袴のそば高くとり

神璽を脇に掻ばさみ

宝剣を腰にさし

主上をいだき参らせて

聞き入っている人々はいつか眼に涙をいっぱい持っていた。蒼い海づらに逆まく渦潮のあいだに漂う弓だの矢だの檜扇だの緋の袴だのがいたましく瞼に映ってくるのであった。そして驕り栄えた一族門葉の人々の末路を悲しいとも哀れとも思ったが、涙はその人々にこぼしているのではない、等しく同じ運命の下におかれている人間というものの自分に対して無常を観じ、惻々と、おのれの明日が考えられてくるのであった。