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しんらん

親鸞

吉川 英治

「名古屋新聞」1934(昭和9)年9月28日~1935(昭和10)年8月9日、1936(昭和11)年1月19日~8月<br>「台湾日日新報 夕刊」1934(昭和9)年9月30日~1935(昭和10)年8月12日、1936(昭和11)年1月7日~8月4日<br>「京城日報」1934(昭和9)年9月~1935(昭和10)年8月、1936(昭和11)年1月10日~8月<br>「神戸新聞」1936(昭和11)年1月5日~8月6日<br>「福日新聞」「北海タイムス」1935(昭和10)年9月~1936(昭和11)年8月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 566,138 字 · 1127 页

青空文庫

七

役人が、なにかいうと、

「だまれっ」と、呶鳴ったり、

「ぶち壊すぞっ」と、檻車のなかで、暴れたりするのである。

(手がつけられん)というように、役人たちが、見ぬふりをしてゆくと、

「俺たちの、同胞よ」文覚は、檻のなかから、いつもの元気な声をもって、呼びかけた。

「この檻車は、東を指してゆくのだぞ。日出る東の果てを指して――。俺は、伊豆にながされてゆく。だが、そこから必ず窮民の曙光が、遠からぬうちに、さし昇って、この世の妖雲をはらうだろう」

「しゃべってはいかん」刑吏が、ささらになった竹の棒で、檻車をたたくと、彼は、雷のような声で、

「おれは、唖じゃないっ」

「だまれ」

「だまらんっ。――この世は唖になろうとも、この文覚の口は塞げぬぞ」

七

それからまた、

「天に口なし、人をもっていわしむ」文覚は、よけいに声を張って、尾いてくる群衆へ、朗々と歌って聞かせた。

宝財永劫の珠ならず

位冠栄衣も何かせん

民の膏血に灯ともして

奢りの華ぞあやうけれ

明日にしもあれ一あらし

あらじと誰か知るべきや

「こらッ」竹棒は檻車を撲って、

「歌をやめんと、水をかけるぞっ」

「かけろ」文覚は、動じもしない。

「――俺を捕えて、伊豆へながすなどとは、野に、虎を放つものだ。