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しんらん

親鸞

吉川 英治

「名古屋新聞」1934(昭和9)年9月28日~1935(昭和10)年8月9日、1936(昭和11)年1月19日~8月<br>「台湾日日新報 夕刊」1934(昭和9)年9月30日~1935(昭和10)年8月12日、1936(昭和11)年1月7日~8月4日<br>「京城日報」1934(昭和9)年9月~1935(昭和10)年8月、1936(昭和11)年1月10日~8月<br>「神戸新聞」1936(昭和11)年1月5日~8月6日<br>「福日新聞」「北海タイムス」1935(昭和10)年9月~1936(昭和11)年8月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 566,138 字 · 1127 页

青空文庫

屋根の下

一

禅房の戸が、ふくらむように、がたがたと鳴っていたが、そのうちに、上人の寝屋の戸が外れて、車を廻すように、豪雨の庭へころがった。

「お師さま」

「上人様」まっ暗で、誰かわからないが、もう幾人もの弟子が、上人の室を案じて、そこに集まっていた。

屋根の一端が暴風雨にさらわれてしまったものと見えて、白い雨水が、ぶちまけるように梁から落ちているのである。もちろん、灯りは努力しても一瞬も持っていなかった。

綽空を初め、蓮生や、念阿などの弟子たちは、その暗い片隅に念仏の低い声がきこえたので、皆、その一所にかたまり合った。それが、師の法然だったのである。

せっかく、年暮のうちからすこしよくなったお風邪をぶりかえさぬように、弟子たちは、身をもって法然をかこみながら、念仏に和していた。

暴風雨はなかなかやみそうにもない。みりみりと、梁や柱がさけぶのだった。戸は、二枚三枚と奪われて行って、庭が、湖のようになっているのが豪雨の中にものすごく見える。

その中を、誰か、ざぶざぶと膝まで水に浸して歩いてくる者があった。

「綽空様」と、家のまわりを呶鳴ってあるいていたが、やがて、戸の外れたところから、