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しんらん

親鸞

吉川 英治

「名古屋新聞」1934(昭和9)年9月28日~1935(昭和10)年8月9日、1936(昭和11)年1月19日~8月<br>「台湾日日新報 夕刊」1934(昭和9)年9月30日~1935(昭和10)年8月12日、1936(昭和11)年1月7日~8月4日<br>「京城日報」1934(昭和9)年9月~1935(昭和10)年8月、1936(昭和11)年1月10日~8月<br>「神戸新聞」1936(昭和11)年1月5日~8月6日<br>「福日新聞」「北海タイムス」1935(昭和10)年9月~1936(昭和11)年8月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 566,138 字 · 1127 页

青空文庫

六

と峰阿弥は、癖のように、頭を傾げて――

「なぜ、妻を持つことが、破戒無道でございましょう、戒は人間が決めたもの、仏がお決めなされたものではありません」

「知らぬか! 蓄妻肉は、堕獄の罪にひとしい掟になっていることを」

「では、東大寺の明一和尚はいかがですか、元興寺の慈法和尚は堕落僧でございましょうか。遠く、仏法の明らかな時代に溯ってみますると、奈良朝のころには、明一や、慈法のような碩学で、妻を持たれたお方は、幾人もあったようでございます。続日本紀をお読みになったことはありませんか、あの中の延暦十七年の条に、太政官の法令として――

自今、僧侶ノ子ハ

一切還俗セシメテ

以而、将来ヲ懲ス

――と出ているのを見ても思い半ばに過ぎるものがございましょう。ために、滔々と、軟弱な弊風があったことも否めません。自力聖道門が、絶対力を礎いたのは、そういう時代の反動でございました。けれど、自力といい、他力と申しましても、道は一すじです、同じ高嶺の月であります、ただ、世道人心のあるところをよくよく見究めてやらなければ、億衆の手をとって、親切に、安住へ導いてやることはできません。ただ闇雲に、外面如菩薩の、肉外道の、自力絶対のと、社会が変っても、人心や生活の様式が推移っても、後生大事に旧学に齧りついているのは、俗にいう、馬鹿の一つ覚えと申す