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しんらん

親鸞

吉川 英治

「名古屋新聞」1934(昭和9)年9月28日~1935(昭和10)年8月9日、1936(昭和11)年1月19日~8月<br>「台湾日日新報 夕刊」1934(昭和9)年9月30日~1935(昭和10)年8月12日、1936(昭和11)年1月7日~8月4日<br>「京城日報」1934(昭和9)年9月~1935(昭和10)年8月、1936(昭和11)年1月10日~8月<br>「神戸新聞」1936(昭和11)年1月5日~8月6日<br>「福日新聞」「北海タイムス」1935(昭和10)年9月~1936(昭和11)年8月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 566,138 字 · 1127 页

青空文庫

「そして、何を得たかの」

「何も得ません。初めの半年ぐらいは、これこそ、念仏行者の道ぞと、澄みきった心のつもりで、行い澄ましておりました、一年経つと、なにかこう自分が空虚のような不安を感じて参りました、二年目には、心がみだれ出し、自然の中の寂寞さが常に心をおびやかしてきました。――一念無想に念仏をとなえているつもりなのが明けても暮れても、都のことを考え出してきたのです。眼をとじれば、京の灯が見え、耳をふさげば人間の恋しい声が聞えてくる。そして、夢にまで、人間と交わったり、都へ帰った夢ばかり見るのです。……堪まらないほど、私は、口がききたくなりました。――旧友と、世間の人と、信徒たちと。――すべて初めに厭って逃げてきた者がやたら無性に慕わしくなり、矢もたても無くなったので、実は、お恥かしい限りですが、夜逃げのように、笠置の奥から舞い戻ってきたのでございまする」心蓮の正直な体験の告白を、一同は、興味ふかく、また教えられるところもあって、和やかに聞き入っていた。

法然は、もうすっかり、常の柔和な眼ざしに返っていて、

「それが分ったのはなによりじゃった。したが、三年はちと長うあったの……」