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しんらん

親鸞

吉川 英治

「名古屋新聞」1934(昭和9)年9月28日~1935(昭和10)年8月9日、1936(昭和11)年1月19日~8月<br>「台湾日日新報 夕刊」1934(昭和9)年9月30日~1935(昭和10)年8月12日、1936(昭和11)年1月7日~8月4日<br>「京城日報」1934(昭和9)年9月~1935(昭和10)年8月、1936(昭和11)年1月10日~8月<br>「神戸新聞」1936(昭和11)年1月5日~8月6日<br>「福日新聞」「北海タイムス」1935(昭和10)年9月~1936(昭和11)年8月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 566,138 字 · 1127 页

青空文庫

「なんとか、和解の途はないものだろうか」禅閤は、自分の力で、この大きな対立の調停ができるものなら、どんな骨を折ってもよい、老い先のない身を終っても忌わないと考えていた。

で――高雄の明慧上人へ、ぜひ一度、個人的に会って談合したいが――と使いをもって申し送ると、明慧からも、承諾の旨をいってきた。

「かの上人ならば」と、禅閤は、一縷の望みを抱いて、今の大きな危機を、自分の信念と誠意をもって、未然に、打開できれば、それはただ吉水の門派や一箇の法然の幸いであるばかりでなく、社会不安の一掃であり、また、一般の法燈のためにもよろこぶことだと信じていた。

ところが――意外な大事件が、誰も考えていないところから突発した。――まったく、吉水でも、その法敵でも、夢想もしていなかった社会の裏面から、それは燃えひろがった魔火であった。

悪人篇

松虫と鈴虫

一

暦の上ではもう秋といわねばならぬが、気象は夏型のままだった。久しく雨を忘れているような空に、きょうもうごかぬ雲を見せ、宇宙は大きな倦怠状そのものだった。

この倦怠と無変化を、残暑とよんで、人の生態も、ふしだらや無気力が自然とされ、東山の高さから洛内をながめても、炎天のうちは、大路大橋を往く人影もなく、乾きぬいた町家の屋根は反りかえり、加茂川の水は涸れほそって、堤の柳も埃に白くうなだれ