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しんぺんちゅうしんぐら

新編忠臣蔵

吉川 英治

「日の出」1935(昭和10)年1月号~1937(昭和12)年1月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 337,181 字 · 676 页

青空文庫

それも、隠れ遊びでもする事か、こういう往来同様な三十石船のなかであるのに、胴の間に席を占め、大阪の曾根崎あたりから連れて来たのか、五人の妓と、陰間の瀬川竹之丞と、仲居妓と、人目をそばだたせるような派手な一座に取りかこまれて、

『おっと……酒杯の酒がゆれると思うたら……なんじゃ、船が揺れだしたのか。ハハハハ、岸が遠くなって行くのか、船が遠くなってゆくのか、この答え、お艶、どうじゃ、解いて見い』

内蔵助の舌はもう縺れているのだった。仲居のお艶が、膝へこぼれた酒を拭いてやりながら、

『船が遠くなるのか、岸が遠くなるのか。――それは、謎でございますか』

『そうじゃ、この謎、解いた者には、酒杯をとらせよう』

妓の一人が、

『酒は、もうたくさん』

と云うと、

『それなら、抱いて寝てやろ』

『ま! 人なかで、いやな浮様でございますこと』

『なんの、人中で云うてわるいか、世の中に、女ぎらいの男、男ぎらいの女は、無いはずじゃ。あるというなら、そやつは、嘘つきに違いない。……ちがいない……』

いつから飲み初めている酒か。

すこし、つかれ気味。

指で、頭をささえながら、舷へ倚って内蔵助が俯向いていると、