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しんぺんちゅうしんぐら
新編忠臣蔵
吉川 英治
「日の出」1935(昭和10)年1月号~1937(昭和12)年1月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 337,181 字 · 676 页
『ご冗談を……ホホ』
『いや、真じゃ。されば、この度、播州赤穂から帰るさには、鞆の津では、港屋の花漆、浪華では曾根崎、伏見では笹屋の浮橋と、遊びあるき、酔い明かして、一日も遅く京へ着きたいものと願うているのじゃ。……ああ口に出したら急に会いとうなった。浮橋はさだめしこの身を待ちこがれて居ろう。兵庫から、会う日を飛脚でいうてあるのに』
『また、おのろけでござんすか』
『のろけにては候わず――ほんまの事にて候』
『ホホホ、手放しな!』
『竹之丞』
『はい』
『肩がつまってきた。すこし、揉んでおくりゃれ』
『こうでございますか、お大尽様』
『うむ……そこじゃ……ああよい気もち……遊びも肩の凝るものじゃ』
乗合い客の中には、明日の米の買えない者もいた。暗い顔を持って京の女衒の家へ娘を売りにゆく者もいた。その日その日、木賃宿で疲れては眠る旅商人も交っていた。
先刻から、羨ましげに、内蔵助のほうを眺めていたが、やがて、内蔵助が歌舞伎者の竹之丞の膝にふたたび酔いつぶれてしまったのを見ると、急に、ひそひそ噂をし始めた。
『いったい、あれやあ、何処のお大尽なんで?』
『さあ、よく知らないが、山科とか云いましたよ』