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しんぺんちゅうしんぐら

新編忠臣蔵

吉川 英治

「日の出」1935(昭和10)年1月号~1937(昭和12)年1月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 337,181 字 · 676 页

青空文庫

それと見て、やや遠くから尾いて歩いていた武林や潮田は、

『やっ、何奴』

駈け出して、

『汝れッ』

と、三方から、合羽を取り囲んだ。

男は明かに狼狽したらしかった。小野寺幸右衛門の顔へ向って、匕首を、抛り投げた。そして、怖ろしい迅さで、近くの露地から何かの社の森へ駈けこんでしまった。

『ううい……。お艶、お艶』

並木の桜に凭れかかって、内蔵助は、ぐんにゃりとしていた。あんな危機を遁れた生命であることも、まだ判乎と知らないように――

『どこへ行ったか、お艶。……今出たのは、なんじゃア……追剥か……』

だが、竹之丞もお艶も、まだ、路傍から起き上らなかった。内蔵助の前には、合羽の男よりは、むしろ悽じい血相をした三名の浪人が、鐺をそろえて、睨めつけているのだ。

『大夫! ……』

潮田又之丞が、まず云った。

『内蔵助殿』

と、つづいて唯七が呶鳴る。

『大石殿』

幸右衛門は、叱した。

やっと、内蔵助は、よく見えそうもない眼を、三名のすがたのある方へ向けた。

『ほう……』

と、笑うのである。

『誰かと思うたら、又之丞、唯七、幸右衛門……。いつの間にお越し?』

『おわかりでござるか』