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しんぺんちゅうしんぐら

新編忠臣蔵

吉川 英治

「日の出」1935(昭和10)年1月号~1937(昭和12)年1月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 337,181 字 · 676 页

青空文庫

喜右衛門は、むかっとした。これだけの天井を張りかえる費用と手間が、すぐ頭に数えられたのである。

『お大尽っ、悪戯もよい程に願いましょう』

内蔵助は、炬燵やぐらの上から、喜右衛門の赤くなった額を見下ろした。

『ははははは、亭主、怒ったの』

『誰にせい、これが、怒らずに居られましょうか』

『まあよいわ。ここまで書いてしもうたのじゃ。書かせい、書かせい』

その儘、終りの一句を書いてしまった。

『読んでみい、亭主』

『…………』

『気に入らずば、修繕の金はとらせる。そう怒るな。文句は、こうじゃ』

今日亦逢遊君過光陰

明日如何

可憐恐君急掃袖帰

浮世人久不許逗留

不過二夜者也

読み終ると、

『わははははっ……』

浮橋のひざへ、笑いくずれた。

そこへ、ひょっこり、小野寺十内が顔を見せ、

『ほ。……これは』

と、立って見惚れていた。

その手から、内蔵助の胸へ、ちらと、白い紙片が落ちた。読むとすぐ、内蔵助は、紙子縒にして、弄んでいたが、いつのまにか、何うかしてしまった。

間もなく、助右衛門が見え、潮田又之丞が見え、一座は又、夕方の灯ともし頃と共に華やいで見えたが、ふいに、

『――帰ろうかの』