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しんぺんちゅうしんぐら
新編忠臣蔵
吉川 英治
「日の出」1935(昭和10)年1月号~1937(昭和12)年1月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 337,181 字 · 676 页
『なんの、お互に親しい間がらで、そんな遠慮がいるものか。ちょうど、両国まで行って足したい用事もあるし……』
と、気軽に、
『盲阿弥さん、文箱はあるかね』
『すみませんな。貧乏寺でも、文箱はここにあるが』
『じゃあ、お貸し。あずかって行きますよ』
勘平は、其処の石段を出ると、思わず大空を拝して、
『ありがたい』
と、つぶやいた。
下男ふうに、姿を変えて、彼は吉良家の邸内へ入って行った。
間もなく、そこを出て来ると、もう足は宙を飛んでいた。もちろん石町の本拠へである。
『――十四日だな!』
内蔵助は、いつになく、力をこめてそう云った。彼の感能へ何かぴいんと響いたものがあったのだ。面がぱっと輝いたのでわかる。
(討った! 吉良どのの御首級はもういただいた)
彼の直感は胸のうちでこう云っていた。――十四日、ふしぎとも云えるのだ、その日は亡君内匠頭の実に命日に当っている。
ちょうどそこへ、大高源吾からも、飛札が来て、
当月十四日、大友近江守どのお招きのうえ、茶会のおもよおし有之、四方庵の宗宗匠にも出席のはずに候
愈、ちがいはない!
だが――万々一、この前のように、延引ということがないとも限らない。