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しんぺんちゅうしんぐら
新編忠臣蔵
吉川 英治
「日の出」1935(昭和10)年1月号~1937(昭和12)年1月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 337,181 字 · 676 页
この七月以来、殆ど、病間から外へ一歩も出た事のない太守が、不意に、白絹の寝衣姿を屹と起たせたと思うと、
『おのれ』
よろよろと歩み出したので、五郎左衛門は、驚いて、抱きささえた。
『殿っ、殿っ……。いずれへお出でなされますか』
『知れたこと』
五郎左の手を振り払って、
『衣服を持てっ。――宿直の者、支度を持て、支度をっ』
と、烈しい声でさけぶ。
青じろい額には、玉の汗が滲んでいた。
上杉雪崩れ
小姓頭の森監物も、近習の者も、弾正大弼の前へいっぱいに立ち塞がった。
袖を抑え、体を支えて、
『お病気にさわります。殿、殿……お鎮まりなされませ』
弾正大弼は、痙攣をおこしたように、わなわなと身をふるわせて、
『病気? 病気が何か。そちたちは、赤穂浪人のために、吉良の邸や上杉家の面目を、土足で踏み躙られても、この弾正大弼が安閑と寝て居さえすれば、それで病にさわらぬと思っているのかッ』
『……吾々がおりまする。殿、吾々がおりますからには』
『だまれ、この身を、そち達は不孝者にする所存か』
『――ではございませぬが』
『早く持たんかっ』
太守は、焦れて足を踏み鳴らしながら、
『小袖ではないぞ、火事装束だぞ。